
「誰もが成功させたいと、本気で動いている。それでも、企業間ディールは噛み合わず、頓挫する。」 提携、出資、JV、M&A。 始まる前は、どの案件も合理的に見える。シナジーは描かれ、事業計画もある。関係者は前向きで、成功への期待も共有されている。 ところが実務に入ると、役割分担、開発費、リスク、知的財産、意思決定、収益分配をめぐって認識がずれ、合意形成が止まり、当初の構想は次第に崩れていく。 当事者の能力や熱意が足りないとは限らない。自社と相手企業では、案件の意味、守るべきもの、評価軸、時間軸、意思決定の仕組みが異なる。各社がそれぞれの立場では合理的に動いているからこそ、議論が噛み合わず、誰も望んでいなかった結末に向かうことがある。 その違いを理解し、持続可能な構造へ落とし込めなければ、優れた戦略や魅力的な事業案も実行・成功に至らない。 本書は、企業間ディールの修羅場を「位置付け」「力学」「解像度」「構造」「形態」という5つのレンズで読み解く実務書である。 「位置付け」は、各社・各担当者にとって案件が持つ意味や成功の定義を捉える。 「力学」は、その位置付けから生まれる意思決定と行動の偏りを読む。 「解像度」は、相手企業や市場、現場への理解を深め、問うべき論点を具体化する。 「構造」は、役割・主体、時間軸、費用、リスク、権利、収益の分担を設計する。 「形態」は、契約、出資、JV、M&Aを、目的と構造に応じて選ぶべき器として捉える。 後半では、海外展開を目指した大型JVの立ち上げと運営、双方が合理的であるがゆえに衝突したコンテンツ企業とプラットフォーム企業の協業、ブラジル現地JVで露呈した「理解しているつもり」の誤算を描く。 さらに、包括提携、社内プロジェクト、専門家チームなどの「小さな修羅場」から、案件が崩れ始める兆候と立て直しの着眼点を整理する。 本書が扱うのは、契約締結や合意形成までの交渉だけではない。ディールを構想し、社内を動かし、相手と条件を詰め、実際の事業を運営し、想定外の事態に対応するところまでを一続きの実務として捉える。これから企業間連携を立ち上げる人には設計時の論点整理として、すでに停滞や対立に直面している人には原因を見直す診断軸として活用できる。 著者は、総合商社、スタートアップ、事業会社、コンサルティングという異なる立場から、交渉、合意形成、事業運営まで一貫して経験してきた。その実務知を、企業間ディールに携わる経営者、事業責任者、新規事業・経営企画・アライアンス・投資担当者のための思考法として体系化した一冊である。 企業間ディールに万能な成功手順は存在しない。現実の制約と利害に向き合い、案件ごとに構造を見極め、設計し、必要に応じて修正し続ける。本書は、修羅場の中でも思考を止めず、共創を前へ進めるための「思考の補助線」を提示する。 はじめに 第1章 「位置付け」──何を実現したいのか 第2章 「力学」――人ではなく立場を見る 第3章 「解像度」――理解しているつもりが一番危険 第4章 「構造」――良い案件と良い「構造」は違う 第5章 「形態」――JV・出資・M&Aは手段である 第6章 修羅場から学ぶ ケースⅠーJVを主語にできるか 第7章 修羅場から学ぶ ケースⅡー合理的なのに、なぜ噛み合わないのか 第8章 修羅場から学ぶ ケースⅢー理解しているつもりだった 第9章 小さな修羅場たち――5つのレンズで、止まった案件を見直す 第10章 企業間ディールを前に進める おわりに
一橋大学イノベーション研究センター
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